彼女、「ねえ、まだ?」 私、「もうちょっと」 彼女、「もうちょっとって何分待たせるの?」 私、「もうちょいで取れるから」 私が取ろうとしているのは、側溝に落ちた車の鍵。 彼女、「そろそろ諦めたら」 私、「鍵は見えてるんだ」 彼女、「それは知ってるわよ」 私、「取れそうで取れないんだ」 彼女、「それも知ってるって」 私が必死に取ろうとしているのは、デートのために初めて借りたレンタカーの鍵。 彼女、「レンタカー屋さんならスペアーキーはあるでしょ?」 そう言われても、車を借りたレンタカー屋さんに連絡しても誰も出ない。 スマホの時計を見ると、夜の10時を過ぎており、周囲は真っ暗。 彼女、「寒いんだけど」 私、「もうちょっと我慢して」 鍵がないと、エンジンは掛からない。 彼女、「誰か来てくれないの?友達とかいないの?」 夜の10時を過ぎ、しかも、自宅から200キロ以上離れているところには誰も来てくれない。 彼女、「私、先に帰って良い?」 私、「どうやって帰るの?」 彼女、「タクシーを呼んでよ」 私、「えー!?」 彼女が家に帰るには、タクシー代は幾ら掛かるのだろう? スマホで調べてみると、安くても5万円以上する。 彼女、「鍵屋さんに来てもらえば良いじゃない」 私、「鍵は側溝にあるんだよ」 彼女、「新しい鍵を作ってもらえば良いじゃない」 この発想は無かった。 スマホでスペアキーの費用を調べると、タクシー代より全然安かった。 スマホで最も早く来てくれる鍵屋さんを調べると、夜中なのに30分もしないうちに来てくれた。 鍵屋さん、「何処の側溝?」 私、「ここです」 鍵屋さん、「鍵は見えてるじゃん」 私、「見えてても、拾えそうで拾えないんです」 鍵屋さんに任せると、1分もしないうちに、側溝に落ちたレンタカーの鍵を取ってくれた。 私、「えっ、もう取れたの?」 鍵屋さん、「エンジンが掛かるか試してくれる?」 エンジンが掛かると、先ほどまで不機嫌だった彼女に笑みが戻った。 この経験で、鍵屋さんは鍵を開けたり、スペアキーを作るだけでなく、鍵を拾ってくれることも知った。 鍵屋さん、「気を付けて帰ってね」 彼女、「はーい」 彼女は満面の笑みで鍵屋さんに手を振るため、私は鍵屋さんに嫉妬した。